地味な野鳥コンテスト
親友と呼ぶには怖すぎる人のことを「畏友」と呼ぶとすると、まぎれもない「畏友」の一人Y女史が、
わたしのことを「マニアにだけ受ける地味な野鳥」と評したことがあった。
とにかく地味なので、街なかで飼っていても目立つことはないが、ごく稀に、同好の士が気づくなり走り寄ってきて「いい鳥を飼ってらっしゃいますねえ」とはげしく垂涎するという。
当たっているので、なにもいい返せなかった。
メジロの雌なんて、ほんとうに地味だけど、あれより珍しいマニア向けの野鳥なら、もっと地味なのだろう。
自分を投影するのにまったく抵抗がなかった。
そして、実際、マニアと出会った場合には、わたし自身にも訳がわからないような受けかたをする。
ごく最近のケースはすっぽん料理店店主だった。
仕事でお世話になっている人が開いた会の二次会に、別のお座敷を早めに切り上げて駆けつけたら、おーい、ここここ、と呼ばれたところが、すでにマニアの巣窟。
眼前には、チベットで12年修業したという治療家。
ちらし寿司など食べろ食べろと取り分けてくださる。
わたしを呼んだ人はその隣にいて、満面の笑み。
で、わたしの左横は空いているのね、と思った瞬間に、すっぽん店主登場。
間合いをいきなり詰めてくるが、動じずに対応。
職人談義傾聴には慣れているから、すっぽんについていろいろ聞かせていただいているうちに、
すっぽんのコラーゲンで僕の手は柔らかいんだよお、とおっしゃる。
わたしの胸の前にさしだす手のひらはまっしろで、たしかに柔らかそう。
思わず右手をそっとのせたら、店主はすかさずもう片方の手で上からはさんでがっちりホールド。
しまったあ、トラップだったかあ。
でも、すっぽんコラーゲンが表裏から浸透して、今夜は右手はハンドクリームいらないかも。
態度も顔色も変えずに応対していると、マニアの紳士性が発動することもわたしにはわかっているので、にこやかに会話を続ける。
ただ、前の男性たちが、その様子を見て笑うこと。
ここで強調しておきたいのだが、わたしは生涯を通じて「マニアに受けている」だけであって、一般的な意味でもてた試しは一度もない。
去年のクリスマス前に初めて会って一気になかよくなった、新宿伊勢丹の美容部員Oさんにこの「地味な野鳥」の話をしたら、メイク中にも関わらず爆笑していた。
その笑いが鎮まるのを自ら待ちかねていう。
「その地味な野鳥のコンテストがあるんですよね」
今度はわたしが爆笑。
彼女が追い打ちをかける。
「鳴き声競ったりして」
鳴き声。
ああ、やめて、アイシャドウ塗ってもらってんのにシワになっちゃうじゃない。
「すり餌のブレンドなんかもね、評価採点されるわけですよ」
ほんとにやめてー。
彼女も男に生まれていたら、地味な野鳥マニアだったのかも。
女同士で知り合って、冗談いえてよかった。