有楽町線

銀座一丁目に用事があって、有楽町から東京メトロ有楽町線に乗った。
有楽町駅の日比谷口に出て、交通会館を見ながら地下に入る。
この日は工事で駅のすぐ前の入り口が使えず、交通会館そのものから入ったのだけれども、風景としては、高校2年から卒業までのあいだ、通学のときに毎朝見ていたものと同じだった。
全身が懐かしさに包まれる。
30年以上経っていて、あたりは変わっているといえば変わっているのだが、空間自体は同じなので、体がおのずと動きを思い出して、スムーズに移動していく。
意識は自分から離れて、周りを観察したり、そのように動いている自分自身を感心して眺めたりしている。
有楽町線のプラットフォームまで下りたとき、その感慨はピークに達した。
この匂い。
有楽町線の有楽町駅のプラットフォームの匂い、としか表せないこの匂いが、まだ漂っている。
足元のグレイのタイルとその仕切りの線も全く変わっていない。
階段の脇の細くなっているところを、ちょっとどきどきしながら奥に進むこの感じもあのころのまま。
わたしが毎朝乗っていたころは、開通直後で、なにもかもが真新しかった。
いまはあちこち古びて時間の経過を感じるのだけれど(なんだか自分自身のことをいっているみたいだ)それでも、わたしの五感はその変化の奥にある有楽町線有楽町駅の本質、みたいなものを吸い込んでいるのだ。
当時は麹町までいっていたから、この日乗る電車は反対方向だった。
それでも、電車の到着を待つあいだ「電車がきます」の掲示板をちらっと見るタイミングなどは、我ながら堂に入ったものだった。
そして、有楽町線が入ってきた。
ふわああああんん、という警笛を聴いたとき、わたしの感覚は、完全に飛んでしまった。
時間を超えたのだ。
扉が開き車内に入って、わたしはもう帰れないな、と思った。
このなかは1978年だもの。
ふるっ。