忘れちゃった...

わたしの好きな男性のタイプというのは、ひとことでいって一般的ではなく、たとえば俳優では誰、と聞かれて説明しても、よほど映画好きの人でなければ「ああ、あの人ね」とはならない。
なったとしても、そのあとに「どうして、あの人?」とさらに問われる場合が多いので、ここでは触れないことにする。
むかしむかし『徹子の部屋』に出演した野際陽子が、千葉真一とのカップリングが意外という前振りののち「どんな男性がお好みだったの?」と黒柳徹子に質問されて「さあ...忘れちゃったわ」と答えていたのが、いかにも知的かつかわいらしくて印象的だった。
それまでの好みのタイプを忘れさせるような男性と結婚するのが幸せってものなんだ、と当時たぶん高校生だったわたしは「心にメモ」したものだ。
しかし、野際陽子千葉真一は後に離婚。
あのときの彼女の返答は、本音というより、ウイットだったのだな、と少し大人になったわたしは「心のメモ」を上書きした。
才色兼備の野際陽子とアクションスターで肉体派の千葉真一というのは、わたしの趣味からすればいい取り合わせに思えたのだが、現実は厳しい。
お互い惹かれ合う期間にはギャップは功を奏するが、生活をともにするとなると、ギャップも「隔たり」という素顔をさらすようになるのかも知れない。
とはいえ、現在の野際陽子は、女性の成熟の一つの理想形を体現していて好ましい。
「さあ...忘れちゃったわ」に現れていた知的にお茶目なキャラクターはそのままに、幸せで充実した後半生を自分の力で築いているのだ。
憧れるなあ。
若い女性の決まり文句「かわいいおばあちゃんになりたい」のアンチとしてもあらまほしい女性である。