カフェの席

いきつけのカフェでどの席に座るか。
わたしはとくに決めていない。
入った瞬間にその日の雰囲気を見て、そこそこ静かに過ごせそうな場所を選ぶ。

原稿やその前段階のノートを書くときにはライティングデスクがよく、一人で二人席を占拠するのも気が引けるので、割合としてはライティングデスクに座ることが多いが、その場合は外の景色が見える側にする。
大きな窓から通りを歩く人々を眺めると、自分の頭のなかにも往来が生じて、いろいろなことがクリアになっていくのだ。

きょうもきょうとて、そのカフェの、やはりライティングデスクの外の見えるところに座っていると、よく見かける文筆家らしい女性が入ってきた。
スナフキンのようなつばの広い帽子をかぶり、丸いレンズのサングラスをかけている。
奥の座席を見やり、踵を返して出ていった。

彼女がいなくなってから、振り返って、いつも彼女が座っている席を見ると、大学生の男の子がいた。
彼女はあの席だけがいいわけだ。

このカフェのテラス席の隅に、夜の7時頃にいつも座っている、ちょっと強面のおじさんがいる。
わたしはその時間にはあまりいかないのだけれど、たまたま前を通ったりするとその存在感に目を惹かれる。
やや小柄で、グレイの髪をオールバックにとかしつけていて、モノトーンの柄のシャツがよく似合う。

彼もどうやら、ここは自分の席、と決めているらしい。
それも出入り口に椅子を向けて座っているから、彼がいるときにそこを通ると、なにかチェックされているような感じ。
チケット見せないといけないかしら、と思ったりして。

人それぞれ、カフェの楽しみかたもそれぞれ、なのだけれど、待ち合わせのときには、席を決めている人のほうが見つけやすいという利点があるかも知れない。